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「失楽園」
- 第三部...1
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- 絶望的な苦しみが胸の中に満ちていた。
それは空虚で怠惰な祈り。
助けを求める声は低く、拒絶する声は高く響く。
誰の耳にも届かない言葉は当然の様に音を伴わず、だから自分はいつまでもこうして気の狂いそうな心を抱えていなければならない。
タスケテ。
何が変わるだろう、その想いが伝わっても。
人の数だけ苦しみがあるのなら、皆自分の中の救いを求めることだけに夢中で他人のことなんて構ってはいられない……当然のことではないか、そんなことは。
期待はいつも裏切られるから、だったらはじめから何も必要ないと思えば良いのに。
タスケテ。
でも生きていけない。
愚かなほどに救いを求める自分を嘲笑しながら、それでもまだ求めずにはおれないのだ。
どうして分かって貰えないのだろう。タスケテ、タスケテ、助けて、お願いだから。
一人でいいのに、たった一人で良い、自分のことを少しでも理解してくれる人が居たならどんなことでも出来る、耐えられる、それはそんなに大それた願いなの?
……今だけの刹那的な心で満足出来るのなら、良かった。
それならきっと幸福に包まれていたのだとしても、すぐにそれを失う絶望を想像して怯えるしかない、哀れな哀れな子供のことなんて考えもせずに済む筈だから。
過敏な心が弱く鈍感な心が強いだとか、感じやすい心が正しく傷付きにくい心が間違っているだとか、そんなことは誰も言わないだろうけど。
大切なのはこの心がどう動くのか、何が残るのかだから。
答えはひどく遠く緩慢な波の向こうにあった。
手を伸ばしても届かない、けれど伸ばした手よりもずっと身体に近い場所に。
弱さ、を、
肯定するのではなく否定するのでもなく。
消化出来るだけの、答え。
……それはゆっくり身を起こすと、何も見えない暗闇の中でうっすらと唇を歪めた。
自分の中で蠢く何かが時を知らせている。
ようやく自分の生まれた意味をそれは理解し“外”へと向かうことが出来るのだと。
歓喜と苦悩が生まれ、それでもそれはほとんど機械的に頭を上げるのだ。
様々な苦しみの渦巻くその最中で。
終焉と解放の時の歯車が、少しずつ時を刻んでいる。
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