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「失楽園」

第四部...1
 おかしな現象は一つではなかったのだ、本当は。
 二つの異なる世界の融合、未だ掴めないその異常事態に人々の思考は集中したけれど、本当の“異常”は決してそんなことではなかった。
 それ、に気付くまで、人々は余りにも時間をかけ過ぎたのかもしれなかった。けれどそれをいち早く察知したところで一体何が変わっただろう。
 誰にもそれを止めることは出来ず、そしてそれは、確実に脈動し始めていたのだから。


*****


「目標、真上に来ています! このままでは地上迎撃も間に合いません」
 悲鳴の様な青葉シゲルの声に、点滅するモニターの表示。
 鳴り響く警報が非常事態を告げる中、ミサトは苦々しく中央作戦司令室のメインモニターを見上げていた。
「冗談でしょう……ったく、さっきまでは確かに観測不可能な位置に居た筈なのに」
「信じられません。物理的に消失して、その後ジオフロント真上に現れました」
「で、ジオフロント上三キロ地点で進行スピードを促進したって訳ね。やはり目的はこのネルフ本部、そして」
(アダムか)
 苦々しい表情で最後の言葉を呑み込むと、ミサトはモニターに映る“使徒”を睨みつける。
 そこには不自然なまでに全てが黒い人型の使徒の姿があった。
 まるでエヴァを黒で塗り込めた様な形態だ。
「パイロットはまだなの?」
「……もうすぐ到着します。あ、先輩!」
「リツコ、遅いわよ……って、え?」
 後れ馳せながら到着したリツコを振り返ったミサトは、その姿勢のまましばし固まってしまった。
 非常用昇降口から上るリツコの背後に見慣れぬ少年の姿を認めた為である。
「悪いわね、葛城三佐。……エヴァの微調整は済んであるわ、パイロットが到着次第動かせる様に出来てるから、」
「ち、ちょっと待ってリツコ、その子誰?」
 恐る恐る指差す先には勿論五飛の姿があったりなんかするのである。
 リツコは瓢々としているが、どう見たって彼は部外者だった。
「気にするな。俺は組織内部の状況を確認出来ればそれで良い」
「だ、そうよ。彼は外からのお客様。事情を納得してもらおうにも時間がなかったし、一人ではここまで移動出来ないって話だから付いてきて貰ったんだけど」
「外ってサンクキングダム……? ああもう、この非常時にっ」
「気にするなと言った筈だぞ、女。心配せずとも俺は足手まといにはならん、サンクキングダムとの会談の場を設けた程だ、ここに見られて困る様なものはないんだろう?」
「…………ッ、赤木博士。詳細は後ほど、じっくりゆーっくり伺うわよ」
 ジト目で言うミサトに不本意そうな表情で、それでもリツコは伊吹マヤの元に素早く近寄った。
 二、三の質問の後すぐに状況を掴んで眼鏡を光らせている。その間に五飛は手近な空き場所まで下がっていた。
「使徒。やはり現れたのね」
「状況が変わってもコレだけは消えてなくなったりしない。そう都合良くいかないのね」
「それでマギは」
「判断を保留しています。……葛城三佐、只今パイロットが到着した模様です!」
 てきぱきと答えるマヤの最後の言葉に、ミサトがほっと表情を輝かせた。
「ようやく到着。いいわ、ケイジに直行して貰って。赤木博士、すぐに動かせるってのは本当なんでしょうね?」
「当然でしょ」
 リツコの返答に視線だけ返すと、ミサトは手早くモニターで使徒の位置を確認する。
 しばし計算の後ようやく判断がついたのか、
「エヴァはジオフロント内に配置して。……情け無いけど使徒との戦闘を地上で起こすよりマシかも知れないわね。少なくともサンクキングダムを巻き込まずに済むもの」






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