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「神殿」
- リディア・ノートン@
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- 私が『静寂の神殿』の巫女に選定されたのは、ちょうど十五回目の誕生日を迎えた、肌寒い冬のはじまりの……霜月に入った頃のことだった。
古く歴史書を紐解けば。
今より数百年の昔、大きな戦が、この大陸をのみ込んでいたのだと言う。
時の権力者達の争いから起こった戦は何百年にも渡って大陸を疲労させ、荒野の上に呆然と立ち上がった人々は、人が人をおさめることの愚かしさをようやくにして悟った。
故に、彼らは選ばなければならなかったのだ。今度こそあやまちを起こさずに国を治める、誰より優れた指導者を。
最初に選ばれたのは思想家だった。彼は良く国を治めたが、その雄弁を奮って人々を惑わした。争いが起こり、王は倒れた。
次に選ばれたのは法律家だった。彼は正しく国を治めたが、彼らの一族が大陸の国々を支配すると、莫大な資産を巡って争いが起こった。繰り返して、王は倒れた。
続いて、戦で名を挙げた英雄が、優秀な科学者が、市民の代表である一老人が王位に就いたが、結末は全て同じ、無惨な戦と荒廃した国土を残しただけ。
何度も繰り返された争いに国家は倒壊し、人々は絶望した。
しかしこれらの歴史の中で、ある君主が広大な大陸に散る様々な国を一つにまとめ、治めることとなる。
聖職者。
それこそが、氷の心を持ち、あらゆる雑事に心を動かされることのない王の……民衆の求めた理想の王の姿だった。
以降、大陸を治める王は、この初代の制覇王を輩出した『静寂の神殿』から選任されている。
条件はただ一つ、誰よりも強靭な心と愚行に走らぬだけの理性を持ち合わせた者であること。
世襲制や貴族制の一切は姿を消し、やがて神殿出身の聖職者達が数多く取り立てられると、次第に大陸からは争いの火種が消えていった。
静寂の神殿に入ると言うことは、輝かしい未来を意味する。
けれど入殿を自ら望む者が未だ数少ないのは、この神殿の恐ろしさを人々が十分に理解している為だ。
……それを乗り越える為には、長くおぞましい試練に打ち勝つ必要があるのだと。
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