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「かみさまの木」

郵便柱函の謎A
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「助かったわ陸市、ほんまおおきに」
 廊下に出てすぐ礼を言うと、陸市は軽く頭を下げながら「いいえ」と答えて、
「本当はもう少し早くに声を掛けさせて戴くつもりだったのですが、済みませんでした」
「もしかしておやじさんに叱られとった?」
 普段から如才なく振る舞う陸市が頃合をはかれずに登場するのは珍しい。だからこそ、松之助のことを黙認していた咎を父親に責められていたのではないだろうかと容易に想像がついた。
 反省しながら上目遣いに陸市を見ると、彼は笑って松之助を見つめ、
「いいえ、私は別に。そんなことより松之助様、私にも協力させては頂けませんか」
「え、協力?」
「今回の事件のことをお調べになるのでしょう。私にも出来ることがありましたら、遠慮なくお申しつけ下さい。新居様と二人となると、不便なことも出て来ましょう」
「……気付いとったんか」
 幸里と自分しか知らないことの筈なのに、峯子と言い陸市と言いどうしてこう勘が鋭いのだろうか。
「うん……まあ正直言うて陸市が協力してくれたら凄い助かるけど。迷惑ちゃうか?」
「迷惑などとは、とんでもありません。松之助様の身を案じてじっとしているより、お役に立てた方が嬉しいのです」
 陸市の優しい言葉に松之助はじんわりと胸を熱くさせた。
 どんな状況下にあろうとも、理解者が居ると言うのは嬉しいものである。
 何より一番に信頼出来る陸市が相手なのだ、松之助に異存のあろう筈がない。
「それやったら早速協力して貰えるか? 陸市は確か六条家のことにも詳しいんやったな。親父と話してる時にそないな感じしてたし」
 言うと陸市はこくりと頷き、
「六条男爵についての美談は良く耳にしておりました。現在のご子息を引き取られた話や、その後も月に二三度孤児院を見て周り、資金援助を行っている話などを……大阪の工場を幾つか経営されていて、それで財を成された方だそうですが」
「へえ。えらい孤児院に気ぃ向けとんのやな」
 そんな暇があるのなら、息子の方に気を向けて欲しいものだと松之助は思った。
「ほんなら明日、学校終わってからでええわ。その六条さんとこに行きたいねんけど、車出して貰えるか? 何とか家の人ごまかして」
 松之助の言葉にしばし空を見つめ、陸市はしっかりと頷いた。
「分かりました。学校が終わる時間に、お迎えに上がります」





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