かみさまの木index > 6
「かみさまの木」
- 白い手紙の謎D
-
- *****
深い眠りの底から急に引き戻される様な感覚に、幸里はふと、目を覚ました。
辺りは深淵の闇に沈んでいる。窓から入る月光だけが、淡く病室の輪郭を浮かび上がらせていた。
寝入ってからそれ程の時間が経過しているとは思えず、時計を見るまでもなく、今が真夜中であることは明白だった。
目覚めた理由は分からない。
が、昔から理由もなく深夜に目覚めることは良くあった。
ふとした気配の動きが気に障るのだろうかと思ったが、そう言えば「お前は昔から神経質な面がある」と母親が気遣わしげに呟いていたことを思い出す。
(何だか息苦しい)
まんじりともせず高さの区別さえつかない闇の向こうの天井を眺めていた幸里は、やがて喉元を抑えて寝返りを打った。
喘息の前触れならすぐにそうと分かるが、しかし今感じているのはそれとは別の息苦しさだ。
仕方なく寝台の上に身を起こすと、幸里は改めて室内を見渡した。
しばらくぼんやりとして、何気なく光を求めて窓辺を振り返る。
診療所の庭に何か動く影を見た気がしたのは、その時だった。
(誰か、いる?)
寝台から離れると、幸里はゆっくり窓辺に寄った。
月明かりに冴え冴えと照らし出された庭では、漆黒の葉を揺らす木々が音を立てている。
見下ろすと、木々を刈り取った中央の地面を、丁度人影が走って行く処だった。
こんな時刻、診療所などに何用があったのかと、幸里は首を傾げる。
診療所に入る泥棒など聞いたこともないが、仮に薬品が盗まれたのなら厄介だ。
しかし庭に人影を見たと言うだけで、看護婦を起こす訳にもいかない。
しばし躊躇し、もう一度窓から身を乗り出した幸里は、次第に闇に慣れた目をこらしてはっとした。
群生する木々の一つから、ぶらぶら揺れる細長いものが見える。
幸里は今度こそ言葉を失い、呆然とした。
見間違いでなければそれは、縄で宙吊りになったまま揺れる人影だったのだ。
-
page5+page7