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「恋文」
- <序〜物語のはじまりのこと〜>
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- そこはとても暗くて静かで、余りにも孤独な場所だった。
何年も、何百年も、それはそこに存在していた。それ、が周りを認識し、ぼんやりと自らの存在を知覚出来る様になった後もなお。
……彼は孤独だったが、それまでさほどの辛さを味わったことはなかった。何故なら彼は、この世に存在した最初の瞬間からこれ
までをずっと孤独で過ごし、独りであることを身近な現実として生きていたからだ。
恐らく『それ』は、自分以外に意思を持ち、生きている他者があることなど、予想だにしていなかったに違いない。
しかしある時、それの世界は変貌する。突如現れた暖かい『もの』によって。
気が付けば、それ、は明るい世界の中に居た。そこはとても心地よい場所だった。
『良かったなあ。あんな暗い場所じゃ、寂しいもんな』
それを連れ出してくれた『もの』は、そう言うと眩しそうにこちらを見つめた。その言葉を反芻する程度の知能を、
それは既に有していた。
しかし……。
寂しいって、何だろう。自分はこれまでずっと寂しかったのだろうか。
彼の言葉は、それにとっては不可解なものだった。それでも自分を明るい世界に引き出してくれたその手のぬくもりは
嫌いじゃなくて。
それの世界は、存在する場所を移すことによって見る間に広がり、どこまでも無限に果てしなく光り輝いていた。
そうして。それ、はやがて『望む』ことを覚え始める。
ぼくは……。
明るくなった世界で、独りだった世界を思い、それまでの自分の孤独の意味を知ったが故に望むこと。
ぼくは、あの人と、もっと一緒に居たい。
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