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「天涯比隣」
- <物語の締めくくりのこと>
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- そこはとても明るくて穏やかで、心やすらぐ場所だった。
何年も、何百年も、それは独りの存在だった。けれどいつの頃からか寂しくなくなったのは、ようやく『望む』と言うことを覚えたから。
大切に思えるもの、ずっと側にいたいと思えるものの為に、それは一生懸命頑張った。けれど結果は大切なものを傷つけただけで、だから『それ』は、一度、望むことを諦めたのだ。
そうして初めて、それ、は自ら望むことだけではなく、他者をいとおしみ、守ることの意味を知った。そこから生まれる様々な感情をも。
全てを諦めたそれ、は、一度無へと還った。けれど後悔はなかった。自分と言う存在が消えても、あの人は生き続けてくれるのだと悟っていたから。あの人を、失わずに済んだから……だけど。
奇跡が、起こった。
気が付けばそれは、再び光の中にいた。優しい手の温もり、笑顔、懐かしい人の声。
そうしたものに包まれて、それ、は、生まれて初めて「幸せ」と言うものを認識する。
『お兄ちゃん。見て、お花の色が凄く綺麗だわ』
『水をやり過ぎるなよ。根腐れしない様にな、折角元気になったんだから』
くすくすくす……と響く心地よい笑い声。それから目の前に居る大切な人。
ああ。なんて幸せなんだろう。
身体中に満ちるぬくもりの中で、花はそっと吐息する。
そうして永い眠りについたが、それは決して、永遠に続く孤独の眠りではなかった。
植物の妖精は、この時、ようやく望むものを手に入れたのだ。
<完>
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