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「デッド・トラップ」

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 どん。
 と言うくぐもった音と振動。
 ようやく姿を現した会長と副会長の姿に、一同がほっとして会議を始めようとしていた、その矢先だった。
「……何だ?」
「まさか今の振動、地下から」
「会長!」
「慌てることはない。少し我慢していれば、すぐに終わるから」
 しかし、と上がりかけた反論の声を、クレスは表情を変えずに無言のままなだめた。
「ディドリー書記、恐らくこの振動で講義中の生徒達が動揺しているだろうから、至急放送を流して貰いたい。避難の必要も施設の崩壊の心配もない、と。手の空いた者はディドリーを手伝う様に」
「ミストリアを切り捨てたのね、クレス」
 慌てて会議室を出ていく役員達の中、けれどただ一人ゆっくりとクレスに近づいたナイティラは、珍しく険しい表情でクレスを睨んだ。
「全てを教えておいて、それで切り捨てる訳なの。それが貴方のやり方?」
「選択権は彼女にあると話した筈だよ。切り捨てられるかどうかは彼女の行動次第、彼女がもし最後まで、このファーストグラウンドの生徒会役員としてあろうとするなら……何も起こらない。彼女にはね」
「あの子の性格を知っててそう言う訳?」
「ナイティラ。今回のことは一つのチャンスだと考えて欲しい」
 低い声で返されて、ナイティラは目を眇める。
「……チャンス?」
「君がすぐに処分するには惜しい人材だから出せるチャンスだ。分かるね」
 どん、と再び響く振動。
 かすかに汗ばむ額を拭って、ナイティラはデスクに置いた自分の手を拳にした。
 床を伝う振動に動くことも出来ない。
 その眼前には手を額の前で組み合わせ、うなだれた横顔を覗かせるクレスの美貌が揺れていた。
「残念だけど、今の君には選択権がないよ」







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