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「鎮魂の社」

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  深淵のような闇の中。
 人の声が聞こえたのは、自我が途切れるほど長く、遠い年月の果てだった。
 既に存在しているのかどうかさえ定かでない五感が、その暖かい光を感じ取る。
 暖かい、まるで日の光のような気配。
 そう思っていたら、意識のすぐそばに、小さな姿がふたつ、転がり落ちてきた。
 片方の身体から命が離れてしまっていることには、すぐに気付いた。
 打ち所が悪かったのだろう、恐らくは即死だろうと思われた。
 けれどもうひとつは生きている……暖かい命と輝きを持つ魂を感じる。
 しばらく泣いていた小さな姿は、やがてこちらに気付くと、恐る恐る近寄ってきた。
 自分にとって眩しいこの外からの光も、子供にとっては僅かな明かりでしかないはずだ……それなのに薄暗い視界の中で、こちらを見つけてぽろぽろと涙をこぼしていた。

 ……たすけて……。

 泣くな、と思った。
 身が裂けそうな悲しい声に、それだけを強く感じた。
 そばに寄るとなおさら暖かい。
 小さくていとおしくて、それまで消えかけていた心が水を得たようにいきいきと輝き出すように思えた。
 この子供を守らなければ、と感じる。
 理由は分からない、けれどこんなに可哀想で暖かい生き物を、誰の手にも委ねてはならないと。

 ……頼むから。そんなに泣くな。

 かたわらにあった身体を介して、その小さな身体をゆっくりと抱きしめると、自分の心まで満たされるような気がした。

 もう泣かなくていいんだ。守るから。

 ……必ず、俺が助けてやるから……。


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