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「失楽園」

第一部....4
 ……乱れた画像が線を結び、やがてノイズを失っていった後、そこに映っていたのはライトブラウンの髪の、印象的な目をした少女の姿だった。
『………………ち…はサンクキングダム、私は代表のリリーナ・ピースクラフトです。どうか応答を願います』
「通信が入っています。使用言語は英語で国籍は特定出来ませんが、どうされますか」
 手元のコンピュータを弾いていたオペレーター、青葉シゲルの言葉に、リツコが表情を厳しくする。
「ミサト」
 ちらりと流された視線を受けて、ミサトは頷いた。
「司令の到着は?」
「まだです。ジオフロントに降りたと云う連絡も入りません」
「……仕方ないわね。回線を開いて、私が出るわ。とりあえず司令と副司令がいない今、事態の責任は私にあると考えて、代理を務めさせて戴きましょう」
「メインモニター、映ります」
 少女の姿がメインモニターに転送される。
 大きく映し出されたその顔は“代表”と名乗るには余りにも若すぎるもので、咄嗟に発令所の面々からざわめきがもれた。
「こちらは特務機関ネルフ本部司令室。私は作戦指揮官の葛城ミサト三佐です」
 動揺しているのかいないのか、完全に“勤務用”の表情になったミサトの流暢な英語に、モニターされた少女の顔がいぶかしげに歪んでいく。
『ネルフ……? このサンクキングダムは完全平和主義国家です。失礼ですがその領地内に突然都市を築かれた理由、そしてその目的を明らかにしては戴けませんか』
「……サンクキングダム……?」
 今度はミサト達のいぶかしむ番だった。
「確認させて戴きますが、このネルフ本部は以前より存在するものであり、また第3新東京市についても建設中ではありますが、その着工も突然のことではなかった筈です。どうやら何か食い違いがある様ですね」
『それでは貴方がたの目的は』
「少なくとも、そちらにご迷惑をお掛けする様なことではないのは確かです」
(使徒との戦闘に巻き込めば、十分迷惑に値するわよ)
 表情には出さずにこっそり心中でそう感想をもらしたのは言うまでもなくリツコ。
 ミサトより後方に立つ彼女は、そのまま表情に陰を落としながら唇を噛んだ。
(それにしても遅すぎるわね、司令の到着が。まさかまだ何か起こっているとでも)
「どうやら我々ネルフ側も現在の状況を詳しく把握出来ずにいる様です。サンクキングダム、と言う名は残念ながら初めて耳にするものですし、何より我々の認識から言わせて戴ければ、この場所は“日本”でなければなりません」
『日本? ここはサンクキングダムの領域の筈です。私もネルフと言う名を初めて伺いますが……確かにこれはお互いに随分と不思議な思い違いをしている様子ですね。失礼ながら一つだけお尋ねしてもよろしいでしょうか、皆様がトレーズ派の立場にあるのか、それとも……』
「我々ネルフは国連直轄の……先程の言葉通り“超法規組織”になります。失礼ですが派閥争いの類はまず考えられません。そもそもネルフはサードインパクトを未然に防ぐ為の組織であり、戦乱を起こす為の存在ではないのです」
『サードインパクト?』
 メインモニターに浮かんだ少女の美貌が、束の間歪んだ。
『それは一体、』
 そう少女が呟こうとした瞬間。
 メインモニターにノイズが走り、ネルフ内部に警報が鳴り響いた。




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